宮本常一『空からの民俗学』(岩波現代文庫、2001年)

 日本の土地を改良し、日本の海を活用してきた人びとの歴史。

 イカを追って遠くまで船出したり、そのままその土地に居着いてしまったりする人びと。農業を営みつつも、海の恵みを得るために海辺に住む。

 この国の人びとはそのようにして数千年の月日を生きてきたのではないか。海や大地の恵みを育て、知恵をしぼって守りながら暮らしていく。

 資源が尽きて、あるいはグローバル経済に取り残されて、しかし、そんな暮らしに戻るのだとしても、何も困ることはない。むしろそんな土地に生まれたことを感謝してもいいくらいではないか。

宮本常一『空からの民俗学』(岩波現代文庫、2012年)

「駅前風景」

 明治になって全国にわたって鉄道が敷かれるようになると、大きい駅の前に旅館を建てるふうがおこった。小さい駅で、客の乗降の少ないところではせいぜい茶店ができる程度であり、近くに大きな町があっても駅が田圃や畑の中にできた場合には、あまりりっぱでない旅館ができた。そういう旅館は汽車を待つ時間をひと休みしたり、夜下車しても土地に不案内なために行き場に困って泊ったり、また行商などしている者が常宿にしたりするものが多かった。そういう宿はたいてい宿泊料が安く、気軽に泊られた。そして戦前には相宿をさせられることも多くて、木賃宿とかわらないものが少なくなかった。私はそういう宿は相客がとても面白かった。いろいろの話を聞くことができたからである。[宮本 1979=2001:181]

宮本常一『空からの民俗学』(岩波現代文庫、2001年)