ペーパードライバーが余計なことを考えるな

 幹線道路が渋滞している時、一本向こうの通りに迂回したら渋滞がマシかもしれないとは、誰でも考えつくことである。しかし、経験則からすれば、よく道を知りもしないのにそんなことはしない方がいい。特に大阪のような都市部だと、きれいな網の目に道路が通っているわけではないから、うかつに脇道に入るとどん詰まりの住宅地に入り込んでしまったり、川を渡るための橋がかかっている通りまで遠回りするはめになったりする。また「渋滞がマシかも」という思いつき程度で試してみても、結局は変わらなかったり、もっと酷くなったりするので、変な気は起こさない方がいい。必要に迫られて迂回せざるをえないような時も、ある程度広い道で、幹線道路であろうことがうかがえる道かどうかを判断しつつ、決断することになるはずだ。

 こんなことをペーパードライバーにわからせるのは難しい。ペーパードライバーのくせに、浅知恵を働かせる余裕をかますところに腹が立つ。そんな余計なことを考えるヒマがあるなら、まともに車を走らせることを考えてほしい。

 もっと大きな問題は、そこで脇道に入られると、助手席からのナビの精度は確実に落ちるということだ。ナビゲーターは、自分で運転していないとしても、ある程度必要な判断をしながら限定的な状況把握を行っている。どのようなルートで目的地に到着するのか、コース取りも念頭にある。ここで曲がらなければならないとしたら、遅くともこの時点で路線変更をしておかねばならないとか、渋滞気味である場合には、路線変更しやすいタイミングをはからなければならないとか、ルート上のポイントポイントを意識しながら、少し先のことまで考えながら判断している。その判断は、あらかじめ想定しているルートを前提とした限定的なものなので、そこを外れると、考慮しなければならない条件が増えるし、その条件をクリアするための状況判断や情報収集が必要になる。ペーパードライバーの浅知恵や思いつきでルート変更などされたら、十分なナビゲーションはできなくなる。どこで元の方角にルートを戻すのかという判断も、指示を出して他人にやらせるタイムラグは決して小さなものではない。

 運転は常に限定的な状況把握の上に成り立っている。最低限こういった方針で目的地を目指すという青写真を描けなければならない。そうでなければ、そもそも限定的にしか成り立たない状況把握をすることができないのだ。もちろん、限定的な状況把握を成り立たせるための初期設定をその場で組み替えたり、新たに創出したりといったことも、経験を積めば可能になるに違いない。それでも、これらの操作は反射的に行われるものであり、身体化されている部分も多いので、他人に言葉で伝えるにはそのためのトレーニングが必要になるし、究極的には不可能であろう。